観音菩薩になって聴く

 ティク・ナット・ハン著「怒り―心の炎の静め方」を読んだ。意識的な呼吸の実践によって、怒りや嫉妬、悲しみなど感情への対処法や苦しみを変容させて幸せになるための実践法が書かれている。中でも著者が傾聴について書いているところに注目した。(以下、同書からの引用です)
 本物のセラピストになるためには、深く聴くことができなくてはいけません。本物のセラピストは、先入観をもたず批判もせず、誠心誠意、聴く能力を持っています。共感をもって話を聴くということは、相手が本当に話を聴いてもらっている、理解されている、全存在をもって心で聴いてもらえていると実感できるように聴くということです。相手の言っていることをきちんと聴けるように、人の話は心で聴くべきだと思っています。相手の気持ちを和らげるのはその方法しかない、と。
 話を深く聴くこと、思いやりを持って聴くことは、分析したり、まして過去に起きたことを暴くために聴いたりすることではありません。まず、相手に安心感と、思いの丈を打ち明ける機会を与え、やっと自分のことを分かってもらえたという気持ちになってもらうために聴くのです。傾聴というのは、相手が話をしている間、それが30分でも45分でも、ずっと思いやりを持ち続けられる聴き方です。この間、あなたの心にはたった一つの思い、願いしかありません――それは、相手が忌憚なく話せる機会をあたえること、相手の苦しみが和らぐことです。これが唯一の目的です。とにかく第一は、思いやりをもって聴くことです。
 怒りを理解し、変容させるためには、思いやりをもって聴き、愛をもって話すことを学ぶ必要があります。観音菩薩と呼ばれる慈悲深い菩薩は、偉大なる存在、目覚めた人であり、大いなる慈悲をもって深く聴くことのできる人です。私たちは、この菩薩のように深く聴くことを学ばねばいけません。そうすれば、コミュニケーションを取り戻したいと助言を求めてくる人々にも、具体的なアドバイスができるようになります。